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【コラム】働くことを見つめ直す時間——人事プロパーが男性育休で再定義した「仕事と人生」(後編)

■前編はこちらからご覧いただけます。

■家族との時間がもたらした働き方と人生観の整理

中村さんにとって育休の2カ月強は「とても楽しい時間」でした。先の見えないコロナ禍、夜間の育児、家事、保育園の準備など生活は一変しましたが、その変化を含めて前向きに受け止められるほど、家族との時間は濃密で、今の関係性の土台にもなっています。

奥さまは10カ月の育休を取得し、その後は共働きとなりました。中村さんも保育園への送り迎えや家事を自然に分担し、家庭の時間を組み直していきました。夜泣きの際は、自分があやすと子どもが落ち着くことが多く、父としての役割が日々の中に自然と根づいていったといいます。

育休中は仕事から完全に距離を置くことができました。上司の「連絡はしない」方針が徹底され、社用PCにも触れない環境が維持されていました。復帰直後は本調子に戻るまで少し時間が必要でしたが、育休中に業務で気を取られることはほとんどありませんでした。

一方で、長年担当してきた仕事を同僚に託す際には、不安やさみしさが全くなかったわけではありません。積み上げてきた領域を手放す経験には葛藤が伴います。それでも中村さんは、信じて任せる姿勢を貫きました。この体験は業務を棚卸しする契機となり、再現性を意識した業務設計への視点も高まりました。

働く目的に対する視点も深まりました。「私は会社の仲間が元気に、幸せに働ける職場をつくりたいという思いで人事をやっています。社員のキャリアや退職後の道のりにまで関わるという重みが仕事のやりがいでもありますが、自身の人生の軸と重ねたとき、その意味がより鮮明になりました」と語ります。

育休は、単に業務を離れる時間ではなく、「家族と向き合い、働き方を見つめ直す」時間になりました。その後のキャリアにも確かな影響を残した期間でした。

■これからのキャリアに重なる育休の経験

育休から復帰して数年がたち、中村さんの働き方や職業観には今も続く変化があります。家庭との協力体制を整えながら働くことは、特別な取り組みではなく、自分のキャリア設計の前提として自然に組み込まれるようになりました。

今後のキャリアについて、中村さんは長期の視点で考えています。MCHグループ正社員のいわゆる定年は65歳ですが、世の中としてみれば70歳を超えて働くことも珍しくない時代です。そのスパンで考えれば、育児のための数カ月自身の業務から離れることは決してマイナスではなく、むしろ職業人生を整えるうえで意味のある時間だと捉えるようになったといいます。

人事の仕事は社員の人生に長く関わります。採用や配置、育成、制度運用を通じて、仲間が職場で力を発揮できるかどうか、退職後の道のりにまで影響を及ぼす仕事です。それに育休を経験した視点が加わったことで、その責任感はさらに深まりました。

「子育てや介護、自身の病気など、誰もが何かの事情を抱えながら働く時期があります。こうした前提に立つことで、人事として整えるべき制度や風土の意味が、より立体的に見えてきたと感じます」と話します。

今後は育児や介護のための長期休業者へのサポート体制づくりにも力を注ぎたいと考えています。制度はかなり整備されてきましたが、「ヒアリングをすると、管理職と休業者のコミュニケーションのしかたや頻度など、未整備な部分もあります。職場から不用意に連絡してはプレッシャーになってしまいますが、まったく連絡をとらないのも関心がないと思われてしまうリスクもあります」と語り、運用面で改善できる部分は残っていると指摘します。これから男性育休の取得者が増えていく状況を踏まえると、制度の見直しや育休中・復帰後のコミュニケーションのあり方も含め、より構造的な支援が必要だと感じています。

最後に、これから育休を検討する男性社員に向けてメッセージを尋ねると、中村さんは次のように語りました。 

「育休はぜひ性別を問わず取得してほしいと思います。収入や業務量、キャリアへの影響など心配もあるかもしれません。あらかじめ家族で関係のある制度を確認しておけば、収入減などの不安は和らげることもできますし、キャリアについても長い職業人生で見ればその期間は決して大きくないと私は考えました。それどころか、この期間を挟むことで得られるもののほうがずっと大きいと感じています。」

中村さんにとって育休は、家族と過ごす時間を味わい、仕事を棚卸しし、これからのキャリアを考えるうえで重要な時間でした。その経験は中村さん自身の未来だけでなく、これから育休を迎える仲間の背中をそっと押す力にもなっていますし、人事プロパーとして制度を整える際の視点にも、確かな示唆を残し続けています。

(本記事は2025年11月に取材した内容に基づいています)