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【コラム】障がいのある仲間と共に働く文化へ|MCHグループが描く新しい組織づくり(後編)
■前編はこちらからご覧いただけます。
■16人が初めて同じテーブルについた日
2025年10月22日の午前10時。北海道、東北、北信越、関西、九州(熊本・福岡)など、地理的に離れた拠点から16名の社員が品川本社へ到着しました。日常の「自宅と職場の往復」から離れ、飛行機や新幹線で品川駅港南口へと向かう移動は、小さな緊張と期待をともなう時間です。会議室の前では、オンラインでは得られない距離感を探るように、控えめな挨拶が交わされました。
進行役は、エム・シー・ヘルスケアホールディングス株式会社(以下MCHホールディングス)人事部の篠田氏とアドバイザー役の奥村氏です。2人はこれまで月1回のオンライン開催を支えてきた中心的な存在で、声のトーンは落ち着き、必要な情報だけを簡潔に伝える進め方が印象的でした。問いを投げかけた後、すぐに結論を導くのではなく、参加者が自分の言葉を探す時間をしっかり残します。控えめで過不足のない関わり方が、会場の緊張を自然にやわらげ、話しやすい空気をつくっていました。
最初のプログラムは自己紹介でした。参加者は自分の経験や得意分野、希望する働き方を順に共有しました。
・書類整理など正確性を要する業務が得意であること
・マクロを組むなど、データ処理や仕組みづくりができること
・中途で障がいを持つことになり、今の働き方と向き合っていること
・コミュニケーション力を活かせる役割に挑戦したいこと
・事業のスケールに直接関わる仕事にも興味があること
互いの強みや背景を知ることで徐々に空気はほぐれ、自己紹介を通じ「自分だけが悩んでいたわけではなかった」という仲間意識、安堵感が広がりました。続いて各グループに分かれ、成功体験や工夫、日々の課題をワークシートに書き出し、それぞれ発表しました。短い時間ながら「午後はもう少し踏み込めそうだ」という手応えが生まれ、オンラインで積み重ねてきた関係が確かに土台になっていると感じられるひとときでした。
【グループのビジョンについて熱弁を振るう MCHホールディングス 代表取締役社長 木村 真敏】
昼食はMCHホールディングスの役員も交え、時折笑い声も混じる和やかなものとなり、終えるころには場の雰囲気はさらに柔らかくなっていました。いつもの職場では得がたい「経営陣、ピッチインの仲間と食事を囲む」時間が自然な会話を誘い、小さな笑顔を生んでいました。午後のメインであるグループワークに向け、場の空気は更に前向きに整っていきました。
与えられたテーマは次の2つです。
・障がい者としての強みを生かし、会社にどのように貢献できるか
・意見を出し合い、今後につながる具体的なアクションを見つけること
3つの班に分かれ、議論が始まりました。
・A班:日々の学びを組織に還元する方法。整理整頓、工程を意識した働き方、外部環境の変化への備え、失敗を改善につなげる視点。アスクルのシステム障害を踏まえた複数通販サービスの併用、心の相談員やIBUKIの活用など、現場の課題感に根ざした提案が並びました。
・B班:働きやすさの基盤としてのコミュニケーション。名前で呼ぶ、小さな相談を拾う、役立つ情報を「ピッチイン」のネットワークで集めて届ける。良い行動は文章化し、共有を広げる。こうした積み重ねで「誰も取りこぼさない職場」に近づくという視点です。
・C班:制度と環境の整備。必要な配慮を明確化し、社員へのヒアリングを継続すること。身体障がい以外の特性がこぼれやすい現実を踏まえ、多様な社員が働ける受け皿を強化すること。制度は現場の声から育てるべきだという認識が共有されました。
切り口は異なっても、3つの班が示した方向性は共通していました。障がいを理由に受け身でいるのではなく、仲間として共に働き、責任を果たしたいという静かな意思です。オンラインで育まれてきた関係に対面の温度が加わり、距離感は一段と縮まっていきました。
■「ピッチイン」と人的資本経営の関連
3つの班による発表が終わる頃、エム・シー・ヘルスケア株式会社(以下MCH)の三池社長が入室しました。社長は前方に立ち、参加者一人ひとりに穏やかな調子で言葉を届けました。
【研修の参加者へ感謝を込め、心のこもったメッセージを送る MCH 代表取締役 三池 正泰】
「この場に参加するという決断、そして会社や仲間への貢献の想いに心から敬意を表します。障がいの内容は違っても、多様性を認め合いながら一緒に会社を成長させていくことが大切です。こうした努力こそが組織を強くします」
そう述べながら、品川本社まで足を運んでくれたことへの感謝の気持ちも添えました。障がい者雇用を制度や数値ではなく、会社の成長や価値創造と結びつけて捉える姿勢が、言葉の端々から静かに伝わってきました。
続いて、人事部の奥村氏が全体講評を行いました。「皆さんの中には遠方から来てくれた方もいます。本当にありがとうございます。ここに集まった全員がそれぞれに重要な存在で、誰も欠けてはいけません。次からはもっと仲間を増やしていきましょう」。その笑顔が会場の緊張をふっと和らげました。「誰ひとり取りこぼさない」という姿勢をあらためて示し、障がいの有無にかかわらず働きやすさを高めることの重要性を、確かな力をもって伝える言葉でした。
■確実に地歩をかためる「ピッチイン」文化
今回集まった16名は、働く場所も経験も得意分野も異なります。その違いが、そのまま「ピッチイン」という取り組みの土台になっていました。班で出た提案はいずれも現場に根ざした実践的な内容ばかりで、明日からの働き方を少し前向きにするヒントがいくつも含まれていました。
人事部の篠田氏は、この対面開催を「終わり」ではなく新たな「始まり」として捉えています。そして、この動きと並行して、各拠点ではすでに小さな実践が芽を出しつつあります。文章や図解による見える化、得意分野を生かした研修づくりなど、日常の中で静かに形を成し始めています。Excelに強い社員が内製研修の準備を進め、ライティングに強い社員が業務改善のTipsをイントラネットで発信するなど、「ピッチイン」発の取り組みが確かな広がりを見せています。
「ピッチイン」は、人事施策という枠組みを越え、働きやすさを“文化”として育てていく段階に入りつつあります。離れた拠点の仲間が同じテーブルを囲み、率直に意見を交わし、次の一歩を見つける。その積み重ねこそが、MCHグループの人事部が重要視する「誰も取りこぼさない組織づくり」の基盤を形づくっていきます。
参加者が持ち帰った思いは大仰な決意ではありません。「自分の強みを少し活かしてみたい」「もう少し周囲に声をかけてみたい」といった内に秘めた想いや前向きさに近い感情でした。一人ひとりが働きやすい職場を共につくりたいという意思でもあります。
MCHグループ2,881名の中で16名の一歩は小さく見えるかもしれません。しかし、組織に新しい変化の風を起こしたという意味では、むしろ大きな一歩だったように思われます。1カ月後のオンライン開催、そして1年後の対面開催へとつながっていけば、仲間はゆっくりと、しかし確実に増えていきます。その循環が生まれたとき、「ピッチイン」は文化として自然に根付き、受け継がれていくはずです。今日の小さな一歩は、これから続いていく歩みの確かな始まりでした。
(本記事は2025年10月に取材した内容に基づいています)
